ツクモグサのこと





1.ツクモグサについて



   学名 Pulsatilla nipponica
 

   キンポウゲ科オキナグサ属の多年草。学名にニッポンとあるように日本の固有種である。

  全体は薄いクリーム色でその中心が黄緑色の花弁状の愕片。黄色のおしべとめしべ。緑よりも黄緑色
 に近い切れ込みの多い小さな葉。高さ10〜15センチ、花径4〜5センチの花。葉が出てくるのと同
 時に花が顔を出す。花弁にも葉にもたくさんの毛をまとっている。
  
  本州では白馬岳、雪倉岳、八ヶ岳に、北海道では利尻山、芦別岳、ピパイロ岳、ニペソツ山、ニセイ
 カウシュッペ山に咲く貴重な花。ただし、ニセイカウシュッペ本体にはなくその周辺の山にあり、また
 かなり前の資料にはポロヌプリ山にあるとあったが、近年はその山で見た報告は存在していない。

  雪解け後に最初に咲く花の一つで、最近では5月下旬から6月上旬が見ごろで、ほかの花々が見られ
 始める7月にはほとんど枯れている。

 高山植物の中でも咲く時期、気品と清楚さ、分布の稀少価値からもっとも好きな花である。

  この花の旬を見るには、まだ雪が多く残っている時期に登らねばならず、多くの山でそれぞれの山頂
 付近の岩場だけに咲く。八ヶ岳を除いてはお目にかかれるまでには相当のアルバイトを強いられる。

  発見は八ヶ岳で、城 数馬という人が最初に見出し、父親の名前九十九にちなんで命名したらしい。


2.ツクモグサを見に行った山

山 名  登山日  写  真  山行記録 
 芦別岳  2014年6月4日

 2003年6月7日
  芦別岳(2014年6月4日)

  芦別岳(2003年6月7日)
 ピパイロ岳  2007年6月9日

 2004年6月5日
    ピパイロ岳(2007年6月9日) 
 八ヶ岳  2013年6月10日

 2007年6月20日
    横岳(2013年6月10日)

  横岳(2007年6月20日)
ニペソツ山  2014年6月2日

 2012年6月16日

 2009年6月29日
   ニペソツ山(2014年6月2日)

 
ニペソツ山(2009年6月29日)
白馬岳  2010年6月11日     白馬岳 (2010年6月11日)
ニセイカウ
シュッペ山
 
 2012年6月15日     ニセイカウシュッペ山 (2012年6月15日)




3.ツクモグサへの憧れ

 高山植物の図鑑などでツクモグサという花があるのは以前から知ってはいた。しかし、この花を実際
 に見てみたいと鮮烈に思ったのは2002年6月に芦別岳のツクモグサの写真を見たときである。

  その1年前に日本百名山のブームに乗って、朝日新聞社から週刊日本百名山が出版され、毎週買い求
 めていた。続いてこの年(2002年)に続日本百名山が出版された。その中に芦別岳が入っており、
 そこにツクモグサの写真とともに解説があった。
  曰く、「ツクモグサは・・・雪が解ければすぐに咲く高山の春告げ花である。どの山のものが素晴ら
 しいかと訪ねられたら、私はためらうことなく芦別岳と答えるだろう。分布するほとんどの山で見てい
 るが、芦別岳のものは“ピカイチ”である。」と。

  このときからツクモグサを訪ねる山旅が始まった。これを読んだときは6月下旬であったため、翌年
 6月上旬の最適なときに会いに行くことを決めた。


   そして、芦別岳でこの花を見ることができたときの感動が、それ以外の山でも見てみたいという思い
 につながっていった。



4.芦別岳とのつながり

  芦別岳には、2001年に転勤で北海道に来るまで一度も足を踏み入れたことがないにもかかわらず
 懐かしさが募る山である。それは高校時代に遡る。

  高校山岳部の山行や合宿では夜になると、部員が代々ガリ版刷りで夏合宿前に作った歌集を広げて山
 の歌を歌うのが慣わしだった。
  山の歌が大好きになった。歌集に載せていない歌も知りたいと思い、調べると山と渓谷社から「山の
 うた」というカラーガイドが出ていた。そこに北大山岳部部歌として「山の四季」という歌が楽譜とと
 もに載っていた。
  その歌詞の一番に、「・・・いざ行こうわが友よ、暑寒の尾根に芦別に・・・」と、暑寒別岳ととも
 に芦別岳が出てくる。部では普及しなかったが自分としては大好きな歌で今でも歌詞を諳んじている。
 二番以降にも、日高、ニセイカウシュッペ、トムラウシ、ペテカリが出てくる。

  北海道に行ったことがなくても山の名前はしっかり青春の頭に刻み込まれていた。それだからこそ、
 北海道に来てこれらの山々を訪れるのは自然の成り行きだったとも言える。

  7月、あーちゃんと富良野へラベンダーを見に出かけ、国道237号線を車で北上した。国道38号
 線に入った途端、思いもかけず真正面に巨大な山塊が姿を現した。芦別岳だ。その雄姿は車のフロント
 ガラス一杯に忽然と現した千両役者のようだった。空知川に架かる橋の上に車を止め、しばし対峙し、
 感動に浸った。

 その年9月に一般に登られる新道から芦別に登った。北海道に来てはじめて山上から見る紅葉は素晴
 らしいの一語だった。が、これから10ヵ月後に続日本百名山の雑誌で芦別にツクモグサがあることを
 知る。

 2003年6月7日。
  前日、山部で泊り、旧道(北尾根)からツクモグサを見に行った。

  芦別は北海道の山には殆ど見られない屹立した山容を持つ山で、旧道から登らないかぎり槍ヶ岳に似
 たその尖峰の姿は見られない。新道から見るのとは同じ山かと思うほどの芦別が現れる。それで今回は
 その両方を撮ることを目的に北尾根から登った。

  キレットを越えたところでその雄姿が、ややヘイズのかかった空に現れ、そしてハイマツに混じって
 ツクモグサが現れた。初めて見るツクモグサである。実物のツクモグサだ。念願がかなったその瞬間は
 忘れることはできない。図鑑などで見る写真では花の閉じたものが多いが、開いた株も多く目にする。
 そこから山頂まであちこちで見られた。

 登り始めてから頂上までは7時間10分のアルバイトだった。


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