お気に入りの道


私たちのお気に入りの山は北岳、夕張岳、ニペソツ山、表大雪で、
この「お気に入りの道」では、それぞれの山の登山口から山頂まで
の道に見られた花々をまとめています。

北岳の花々



 

 北岳は高山植物の宝庫の山である。

 キタダケソウはここでしか見られない固有種であり、ほかにもキタダケヨモギ、キタダケキンポウゲ、シロバナタカネビランジ、ハハコヨモギなど北岳やその周辺でのみ見られる種も多い。またミヤマハナシノブのように北アルプスの清水岳のほかにはここにしかないものが、大樺沢ではかなりたくさん見られる花がある。そんな花好きにとっては嬉しい山である。

 北岳を含む南アルプスのお花畑が素晴らしいのは、地質と残雪に関係があると言われている。地質は堆積岩類またはその変成岩からできていて、これらの岩石が風化してさまざまな岩くずを作り高山植物の生育に理想的な土地ができているらしい。また残雪の消える時期が遅くも早くもなく高山植物の生育に適度であるらしい。

 素晴らしいお花畑はあちこちにある。高茎草原の草すべりや風衝草原の山頂からトラバース道のものが見事であるが、特に八本場のコルから北岳山荘へのトラバース道のお花畑は、それこそ初夏、盛夏、晩夏それぞれの時期で百花繚乱の様相を見せてくれる。次から次へとたくさんの花が出てくるので、このあたりでは、コースタイム通りには歩けない。

 北海道の大雪山のお花畑が一、二種類の花がとてつもなく大きな群落を作るのとはまた違った見ごたえがある。

夕張岳の花々




 

 夕張岳は花の名山である。

 ユウバリソウ、ユウパリリンドウなどユウバ(パ)リを冠するものだけでも10数種あるといわれる。
 夕張に固有の植物が多いのは、この一帯が蛇紋岩というマグネシウムや重金属を多く含んだ超塩基性の土壌から成り立っていることによる。この土壌ではたいていの植物は生きられない。その中にあって長い年月をかけてこの土壌に適合したものが貴重な固有種となっている。

 さらに、湿地帯が多いこともあいまって、固有種以外にも本当に多くの高山植物が分布している。中でも、6月中旬からの石原平のシラネアオイ、7月中旬からの湿性お花畑のシロウマアサツキの群落はそれは見事だ。

 しかし、この山にも1989年にスキー場建設計画が持ち上がった。ユウパリコザクラの会を中心に反対運動がおこり、ついにこの計画を断念させてしまう。そして1996年に高山植物とその生育地が国の天然記念物の指定を受けるまでになった。つまり夕張岳一帯が天然記念物に指定されたわけだ。山全体を天然記念物にしてしまう発想がユニークだ。

 望岳台から山頂までは、ひっきりなしにいろいろな花が現れる。花の種類の多さでは北海道随一だと思う。また10日から2週間もたつと、咲く花の種類がはっきり変わってしまうというのも標高の高くないこの山の特徴だと思っている。とにかく、いつの時期でも花好きにとってはとてもうれしい道である。
 
ニペソツ山の花々



 

 
ニペソツ山は花の名山としては必ずしも一般に知られていないが、あまりお目にかかれない花がたくさん見られる山である。

 歩き始めてほぼ3時間、前天狗にさしかかってようやく舞台の上に千両役者がお出ましになるように北海道にはまれな尖峰がその姿を現してくれる。それまでは晴れてはいても山頂部全体が見えるのかどうか分からないから、どきどきしながら歩き、全容がくっきり見られた時にはいつも感動する。

 ニペソツ固有の花はトカチビランジである。そのほかに固有種はないもののツクモグサ、トカチオウギ、チシマゲンゲ、フタマタタンポポ、エゾルリソウ、ユウパリリンドウなどほかの山でなかなか見られないものが、山頂付近ではたくさん見られるという特徴を持つ山である。ただ一つの種の量はかなり少ない。

 さらに、こんな尾根筋にエゾコザクラが咲いているとか、こんなところにショウジョウバカマがあるとか、咲いている場所に不思議さを感じることがままある。何回か登っているとニペソツにはこんな花もどこかにひっそりと咲いているのではないかという期待を感じさせる山でもある。

 夕張岳同様、この山も百名山にならなくて良かったと思っている。登山口にトイレと前天狗にトイレブースがあるだけで、テント場(時期によってはテン泊可能)も水場も避難小屋もない。百名山にでもなってたら相当なオーバーユースになって、花も激減したに違いない。花が多い山でしかも静かな歩きを味わえるこの山のよさをいつまでも残しておいてほしいものだ。


表大雪の花々



 

 大雪のお花畑はまさに壮大である。アイヌ語でカムイミンタラ(神々の遊ぶ庭)と呼ばれるわけが行ってみると本当に良く分かる。

 表大雪をここでは、一般に言われている北海道の最高峰旭岳を中心に、東の黒岳から西のトムラウシまでの一帯とする。

 大雪のお花畑を作るのは、ここの地形と冬の積雪と強風によるものだといわれている。そのお花畑は広大であり花の量の多さにまず度肝を抜かれる。五色が原から化雲平一帯、小泉岳を中心とした白雲岳・緑岳・赤岳一帯、銀泉台から赤岳へのお花畑は、何時訪れても多くの花が迎えてくれる。もちろんここ以外でも黒岳周辺、高根が原、忠別岳、トムラウシ周辺などの素晴らしいお花畑がある。

 また、キバナシオガマ、ホソバウルップソウ、クモイリンドウ、エゾハハコヨモギなどの固有種もある。

 表大雪のお花畑の特徴は、同じ種の花が広大な範囲で咲いていること、残雪のあるところでは初夏の花と夏の終わりの花が同時に見られる場所が多いことであると思う。
 
 しかし、最近はその花の量が相当減ってきている。特に五色が原や化雲平など湿原とその周辺で感じる。それは例えば20年前のお花畑の写真と比べれば一目瞭然である。原因はいろいろあろう。地球温暖化による湿地帯の乾燥化、ササの繁茂、シカなどの増加による生態系のバランスの変化(食害の増加)、オーバーユースなど。特に温暖化が影響しているのは、高山植物が氷河期の生き残りであることを考えると論を待たない。減少は木本植物より一年草、多年草の植物に目立つように思う。温暖化を防ぐことに少しでも気を配って生活したいと思う。

 登山口はたくさんあり、どこから登っても必ずいろいろな花に出会える。花の咲く時期は6月初旬から8月下旬のおよそ3ヶ月と短いので、どこに何を見に行こうかと迷うほどの、花好きにとって期待をいつも裏切らない山である。

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